承継的共同正犯について
いわゆる承継的共同正犯とは、ある犯罪について、先行行為者が実行行為に着手し、未だその行為の全部が終了しない段階で、後行者との間に、その犯罪についての共同実行の意思を生じ、その後、先行行為者と後行行為者とが共同してその後の実行行為を行う場合をいうとされています。この場合に後行行為者が先行行為者が行った行為・結果の責任を負うのかという問題が、いわゆる承継的共同正犯として議論されていることです。
最高裁平成24年11月26日第二小法廷決定(刑集66巻11号1281頁,判タ1389号109頁)は、傷害罪における承継的共同正犯について、「共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については、被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ、傷害罪としての責任を負うと解するのが相当である。」として、この傷害事案においては否定説の立場をとりました。
否定の理由の要旨は「すでに生じさせていた傷害結果について後行行為者の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから」というものです(共犯論と絡むが立ち入らない)。
もっとも、同判例には、千葉勝美裁判官の補足意見があり、千葉裁判官は「強盗、恐喝、詐欺等の罪責を負わせる場合には、共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の成立を認め得るあろう」としてとしています。実務上は、強盗などで先行行為者が被害者の反抗を抑圧し、財物奪取を継続している途中で、後行行為者がはじめて関与するなどの事例が考えられるところです。
この場合、前記千葉裁判官の意見よれば、強盗の共同正犯になりそうです。
しかしながら、前記最高裁の多数意見の論理は「すでに生じさせた結果に後行行為者の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはない」というものなので、反抗抑圧状態という結果についても後行者の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないという論理になるのが筋ではないかと思われます(そのような判例解説もある)。したがって、このような事例においては、弁護人としては、強盗罪の共同正犯を否定するべきではないかと思われます(強盗の従犯か?)。
※ その後、詐欺に関して最高裁は、受領する行為のみに関与した者は、欺罔行為と一体のものとして予定されていた受領行為に関与している以上」加功前の欺罔行為の点も含めた詐欺未遂の共同正犯としての責任を負うとしているので、千葉勝美裁判官の補足意見のような考え方をとっているのではないかと思われます(最高裁平成29年12月11日 刑集71巻10号535頁)。