民法(債権法)改正と交通事故
債権法改正によって、交通事故関係の事件がどのような影響を受けるのか概観してみました。
(物損事故)
時効期間 不法行為の損害賠償請求権の20年の権利行使期間が除斥期間ではなく時効期間となったこと(724条2号)、「中断」「停止」が「更新」と「完成猶予」に整理された(147条以下)点は、人損事故と変わらない。「協議を行う旨の合意による時効の完成猶予」の規定が新設されている(151条、なお、同条3項は注意)点も同様である。
法定利率 年3%になった(404条)。遅延損害金としては従前よりも減少することになる。
相殺 「悪意」のない場合には相殺が可能になり、合意がなくても相殺が可能になった(509条)。
(人損事故)
時効期間 前記物損事故と異なり、短期の時効期間が5年になった(724条の2)。これらの規定について他の債権一般とは異なる経過措置が定められ(附則35条)、交通事故が施行前に発生し、損害賠償請求権が生じた場合であっても、施行日(2020年4月1日)において、3年の時効期間が経過していなかったときや、20年の期間が経過していなかったときは、改正民法の規定が適用される(令和2年版「赤い本」69頁)。自賠法3条に基づく損害賠償請求権も同じとされている。
法定利率による影響 年3%となった関係で中間利息控除額が少なくなり、死亡や後遺障害による逸失利益等の将来の利益や将来介護費等の賠償額が増えることになる(417条の2、722条)。法定利率は変動する可能性があるが事故時の利率を用いることになる【適用する利率の基準時】(404条)。もっとも、それ以上に具体的な中間利息控除の方法は定められておらず、今後も【中間利息控除の基準時】は症状固定時と考えられている(前記「赤い本」下巻67頁)。さらに、具体的な算定方法(基礎収入、生活費控除率、労働能力喪失率、介護費日額等に基づいて積算するという現在の判断枠組み)も基本的に変更はないものと解されている(前記「赤い本」69頁)。結論として、遅延損害金は減少するが、他方で、中間利息控除額は減るので逸失利益は増加することになると解される。
なお、保険金請求や自賠法16条の請求権の時効期間に変更はない(整備法)。また、不真正連帯債務の考え方についても、今回の民法改正を受けて、一部は「連帯債務」の規定の適用があるのではないかとの解釈が示されている(前記「赤い本」73頁)。