労働審判という制度について

 労働審判という制度をご存じでしょうか。今回は、この労働審判について考えていることを書いてみたいと思います。
 労働審判とは、平成16年に制定された労働審判法に基づき、労働関係に関する労働者と事業主との間に生じた民事紛争(いわゆる個別労働関係紛争)について、全国の地方裁判所で実施されている紛争解決のための制度です。
 実際に制度が開始された平成18年には、877件であった新受件数が、平成24年には、3719件まで急激に増加し、その後は、平成25年に3678件、平成26年に3416件と少し落ち着いた感じになってきています。
 ところで、実際に、この労働審判事件に代理人として関与して感じるのは、なんといっても解決までのスピードが一般的に速いことです。通常の民事訴訟では、判決までに1年程度かかることが多いのですが、この労働審判という制度では、申立てから、2,3か月内に解決することが多いです。 統計上も、労働審判の期日における調停成立と労働審判になったが異議申立てがなされなかった件数を合わせると全既済事件の約8割になるとのことですから、私の個人的な感想ではなく、全体的に迅速な解決がなされているということだと思います。
 もっとも、この労働審判は、原則として3回以内の期日において審理を終結しなければならないので、労働審判にふさわしい事件とそうでない事件の振り分けが重要とされています。たとえば、残業代とかパワハラ事件などは労働審判にふさわしくないと言われることもあったようです。
 しかし、近時の報告(「自由と正義」68巻第2号 2017年2月号の特集2 参照)や、私自身の経験からすると、残業代事件だから一律ふさわしくないとは、言えないような気がします。実際、私個人の経験でも、残業代請求の事件が、労働審判の中で調停成立になったことが複数回あります。
 私は、労働審判に適切か否かは、あくまで個別事案の性格によるのであって、抽象的に判断することはできないと考えています。たとえば、申立人が主張する事実関係は証拠上どの程度明らかにされているのか(されうるのか)、申立人が望む解決水準はどの程度なのか、労働審判の期日に依頼者本人は来ていただけるのか、解決までのスピードをどの程度重視しているのか、管轄の問題はあるのか、などによって選択する手段が異なるような気がします。
 訴訟なのか、労働審判なのか、仮処分なのか、については、事案の性質、依頼者の希望など個別事案に応じて検討する必要はありますが、私が、ここで強調したいのは、労働審判がかなり効果的な紛争解決の方法の一つだということです(私が、労働事件に関わって感じるのは、労働法の法制について、双方に十分な理解がなく、そのために徒にこじれているのではないか、ということです。したがって、本来は「労働法ではこうなっています」、「訴訟になれば概ねこうなります」ということが明らかにできれば、訴訟までしなくても解決できる事案が相当数あるのだと思います。)。
 また、私個人としては、立証が困難なケースであっても多少なりとも話し合いの可能性があるのであれば、最終的には24条で終了したとしても、労働審判をすることは無意味ではないと思っています。労使双方が、裁判所という中立な場所で、労働審判委員会の主導のもと話し合いをすることは、双方にとって意味があると思うからです。
 
※ 近時、さらに不当解雇の金銭解決制度なども議論されています。個人的には、最終的に金銭解決になるとしても、ここまでいくと少しドライな感じがしてしまいます。

 以上を踏まえて、私の個人的な意見ではありますが、基本的には、全件、労働審判を前置するような運用がされても良いのではないかと考えています。なぜなら、仮に、労働審判の期日の中で話し合いがつかなくて調停で合意にならず、労働審判になり、その後、訴訟ということになったとしても、お互いの主張内容、立証の内容などは、すでに一応概観できているので、いきなり、訴訟をするよりは、迅速で、かつ、妥当な解決になると思われるからです。他方、労働審判を前置するような運用をしても、双方、異議申立ての機会を有しているので、特段不利益はないように思うからです
 また、これは個人的な要望ですが、労働審判は、労働審判員の専門的知見を活かせるので、裁判所としても、ある程度、大胆な事実認定をした上で、より積極的に和解を促しても良いのではないかと感じています。仮に、調停で合意が成立せず、労働審判になっても、双方、異議申立ての機会を有しているので、特段不利益はないように思うからです。
 もっとも、全件労働審判を前置するような運用をするとなると、基本的に労働審判が一部を除いて(立川、小倉、浜松、松本、福山)、地方裁判所の支部では行われていないことをどうするのか、という問題が残ります。人員や需要の問題なのかもしれませんが、小規模な支部であっても、民事調停と同様に、労働審判を可能にしておくことによるメリットはあっても、デメリットは少ないのではないでしょうか。いずれにしても、今後の方向性としては、さらに労働審判が広く行われるように運用してゆくのが良いのではないかと考えています。

 

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