休業手当について
「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の場合、使用者は休業期間中労働者にその平均賃金の100分60以上の手当を支払わなければならならないことになっています(労基26条)。
問題は、この規定と民法536条2項前段「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によって債務(労働債務)を負担することができなくなったときは、債務者(労働者)は、反対給付(賃金)を受ける権利を失わない」との関係です。結論的には民法536条2項前段の規定のほうが労働者には有利なので、労基法26条の帰責事由と民法536条2項前段の帰責事由とは何が違うのか、という点が問題になるわけです。
この点について、両者は同じという見解もありますが、判例は以下のように区別しています。
「本条の休業手当の制度は、労働者の生活保障という観点から設けられたものであることを考えると、本条(注:労基26条)の『使用者の責に帰すべき事由』とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点を踏まえた概念というべきであって、民法536条2項の「債権者に責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解される」(最判昭62年7月17日 民集41巻5号1283頁【ノース・ウエスト航空事件】)。
実務上は、さらにその先に問題があります。つまり、不可抗力と「使用者側に起因する経営、管理上の障害」との区別は意外に難しいということです。一般には不可抗力とは(1)その原因が事業の外部より発生した事故であること、(2)事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものとされているようですが、実際のケースに当てはめるのは、なかなか困難です。たとえば、震災が起こったときの細かいケースごとの判断は極めて困難と言わざるを得ません(厚生労働省のHPには「地震に伴う休業に関する取扱いについて」参照)。労基法26条の趣旨から、ひとつひとつの事案において検討していくほかないものと思われます。