被担保債権が免責許可決定を受けた場合の担保権の消滅時効
最高裁平成30年2月23日第二小法廷判決(裁判所HP)は、「抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には、民法396条は適用されず、債務者及び抵当権設定者に対する関係においても、当該抵当権自体が、同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかると解するのが相当である」と判断しました。
抵当権の設定のある被担保債務者が破産申立てをした場合、通常、債権者は債権回収のために抵当権を実行します。
しかし、貸金業者(債権者)は、事実上担保権の実行は難しいが、とりあえず何か担保を取るという意味で、担保権を設定したりすることもあります。
たとえば、親族所有の土地上に立っている債務者所有の建物にだけ担保権を設定するとかです。この場合、債務者が破産申立てをしても抵当権を実行することは困難です(仮に購入しても土地利用権がなく意味がないからです)。今回の判例のもとになった事案も、建物の共有持分に根抵当権を設定していた事案のようでした。
上告人は、被担保債権が破産手続開始決定・同時廃止決定を受けた後、被担保債権の消滅時効が完成したので担保権も(付従性によって)消滅したとして登記の抹消を求めています。
原審は、①免責許可決定を受ける債権は消滅時効の進行を観念できない、②民法396条は債務者及び抵当権設定者に対してはその担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しないから、担保権は消滅しないと判断しました。
私も過去に、担当していた成年後見の事案で、担保権を抹消しようとして、貸金業者と交渉したとき、この原審の裁判例を理由に登記の抹消を拒否されたことがあります(その貸金業者は、登記抹消費用としていくらか支払えば抹消に応じても良いなどと回答してきておりました)。
私としては、免責許可決定を受けて法的に責任を問えない債権なのに、その担保権だけが、いつまでも抹消請求できない形で残存するのは、おかしいのではないかと思ったのですが、お金もないし、しばらく様子をみることにして保留にしたのですが、今回、最高裁としての判断がなされたことになります。
最高裁としては①については、従来の判例の考えを維持しながら(最高裁平成9年(オ)第426号同11年11月9日第三小法廷・民集53巻8号1403頁参照)、②についてはやはり否定しました。
いわく、民法396条の文理に照らすと同条は被担保債権が時効により消滅する余地があることを前提にしている。そのように解さないといかに長期間権利行使がされない状態が継続しても消滅することのない抵当権が存在することになるが、民法がそのような抵当権の存在を予定しているものとは考え難い。
というものです。
結論としては、167条2項の20年間という長期の行使がなされない場合に初めて抹消ができるということになるというだけなので(事案としても棄却されています)、それほど早く抹消できるわけではないのですが、いつまでたっても抹消できない担保権の存在という疑問は解消されたことになります。